
November Collection
November Collection
—ブランド生誕の地を作り上げた型破りな建築家—
16時過ぎ。遮光カーテンを裂くような西日と共に夕焼け小焼けのチャイムがあちこち反響しながら聞こえてくる。
重い腰上げ買い出しの支度をしているうちに、とっぷりと日は暮れて、身震いしながら呟く。「すっかり日が短くなった」。
コートブランドのアクアスキュータムにとって11月は非常に大切な月であり、シーズンテーマやブランドそのものを体現するアイテムが次々と登場いたします。
「London’s Iconic old and modern Architecture」
(伝統とモダンさが融合したロンドンを象徴する建築物)
11月のキールックに据えられたのはシーズンテーマを雄弁に物語る色—スタッコベージュと、英国の誇り—ユニオン・ジャックからインスピレーションを受けた品々です。
スタッコ・ベージュ
01
1851年、クアドラントと呼ばれる優雅な曲線が特徴的な当時のファッション中心地、「リージェントストリート」にアクアスキュータムは創業されました。
ブランドにとって聖地ともいえる、この世界有数のショッピング街が作られたのは19世紀初頭、ジョージ4世治世下の事。
建築様式で言えば直線的かつ左右対称(シンメトリー)が基本であったこの時代に型破りともいえる形状をしたこの場所は、同じく型破りで名の聞こえたジョン・ナッシュという名の建築家によって手掛けらたものです。
後の世で「浪費王」と称されるジョージ4世の寵愛を受けたナッシュは、その莫大な資金を背景に次々とロンドンの建築物を手掛けます。
ウォータールー・プレイス、オールソウルズ協会、カールトン・ハウス・テラス、トラファルガースクエア、マーブルアーチetc......
ロンドンを歩いて目に留まる建物を調べてみると、あれも、これもかと、当時のナッシュの影響力に驚かされますが、最も有名なのはやはりバッキンガム宮殿でしょう。
先王ジョージ3世の時代までは「バッキンガム・ハウス」と呼ばれるに過ぎなかった居住地を「バッキンガム・パレス」として大改築する計画を立てたジョージ4世。
結果的に3代にまで跨る一大プロジェクトとなったこの計画を任されたのがジョン・ナッシュでした。
彼の手掛けた建築はその壮大な構想ゆえに改修に改修を重ねるケースが多く、バッキンガム宮殿プロジェクトも当初は40万ポンド規模(それでも莫大な予算)と謳っていたものが、最終的には70万ポンド(現在の価値でおよそ170億円!)予算にまで膨れ上がったと言われています。
1829年に描かれた風刺画(William Heath作/©The Fotomas Index UK)
右の人物は英国の擬人化として用いられるジョン・ブル。左に立つナッシュと足元のバッキンガム宮殿に対し、不平譜面を列挙している。
見栄っ張りというべきか効率的というべきか、ナッシュの得意とした手法の一つに、レンガの壁に化粧漆喰(しっくい)を塗りたくり、石壁のように見せかけるといったものがありました。この化粧しっくいを「STUCCO(スタッコ)」と呼びます。
美しい色合いと雨風に強い性質から、主に彫刻や彫像、大聖堂の内装など、芸術の分野で重宝されていたスタッコを外装の仕上げ材として用いたのです。
華美である事に重きを置いたナッシュの設計は美しくはあるものの、実際に使うとなると難儀な場合も多く、リージェントストリートに居を構えていた当時の仕立て屋たちからは不評だったと言われています。
また、王の寵愛を盾に次々と予算度外視の建築を手掛けていったのも同業からの不満を買う一因でした。
今、リージェントストリートに面する建物で、ナッシュの設計をそのまま残した建築はほとんどありません。
それでも、南北に延びるストリートの北の終着点、佇むように、見守るように、彼の胸像を備えたオールソウルズ協会が、その足跡を今に伝えています。
ジョン・ナッシュの胸像を備えたオールソウルズ協会の外壁
出展:「ロンドン・ナビ」https://www.londonnavi.com/miru/79/(参照 2025-11-03)
美しさを主眼に置いたナッシュの建築からインスピレーションを受け、化粧しっくいのスタッコ・ベージュを表現したアイテムが11月のキールックとして登場です。
19.5マイクロンという繊細なイタリアンウールにシルクをブレンドし、スタッコの特徴である石壁のようなツルっとした光沢感を表現。
通常ニットウェアは膨らみのある紡毛糸で編まれることが多いですが、あえて梳毛糸を採用し流れるようなドレープ感を持たせることで独特な陰影をも再現しています。
一番の特徴は、化粧しっくい同様に水に強い仕上がりだという事。シルクをブレンドしながらも家庭洗濯対応のウォッシャブル仕様なので、高級感と日常使いを両立できるアイテムに仕上がりました。
今季は各カテゴリーで最高品質にあたるアイテムもスタッコベージュのグラデーションの中で表現。
ジャケットからはシルクとカシミアを配合したゼニア社新素材のコーデュロイ生地を用いたラグジュアリーブレンデッドジャケットを。
アウターからはスエードとコーデュロイの組み合わせが目新しくも華々しいコンビネーションダウンを。
ニットウェアからはカシミア糸を贅沢に両畦(りょうあぜ)編みで表現したアウターカーディガンを。
どのアイテムも高品質な素材である事はもちろん、カラーにもこだわりぬいたラグジュアリーアイテムです。
ウールではなかなかお目にかかれない14マイクロンという極裁繊維で表現されたコーデュロイジャケット。
これまでカントリールックとして用いられる事の多かったコーデュロイ生地も、素材を厳選することでベロアにも似た品格漂う光沢と、もちっとした柔らかな着心地を表現できるという事をまざまざと見せつけられる、ラグジュアリーの名前がよく似合う一着。
イタリアンコーデュロイとスエードの温かみあるハーモニーが美しいコンビネーションダウン。
表素材へのこだわりもさることながら、コスト面の理由で近年使われなくなりつつあるホワイトグースダウンを充填物に採用した高品質なダウンウェアです。
繰り返し修復されることで色の違う層が隣り合う、スタッコによる建築の外観を彷彿とさせるカラーバランスが今季のテーマを体現する一枚。
清廉な雰囲気のテーラード型ラペルと、リラックスムード漂うもっちりとしたカシミヤ生地が、砕け過ぎずキメ過ぎず、上質な時間を演出するニットカーディガンジャケットです。
カシミア特有のラグジュアリーなツヤ感と柔らかな発色が、上質さを物語る逸品。
「ユニオン・ジャック」
02
ところで、イギリスを「イギリス」と呼ぶのは日本くらいなもの。
ポルトガル語でイングランドを意味する「Inglez」が由来と言われていますが、世界的には「UK(United Kingdom)」とか「イングランド」「アイルランド」などと表現されるのが一般的です。
United=連合国と言われる通り、イギリスは主に3つの国が寄り集まったことで現在の形になっています。
それは、国旗であるユニオン・ジャックを構成する要素ともなりました。
イングランドの、聖ジョージ旗と言われる白地に赤十字。
スコットランドの、聖アンドリュー旗と言われる青地に白の斜め十字。
アイルランドの、聖パトリック旗と言われる白地に赤の斜め十字。
これらの国々に優劣がないことを示すため、あえて左右対称にならないよう組み合わされたものこそ、現在のユニオン・ジャックです。
ちなみに、ジャックというのは船首旗を意味する言葉で、海洋国家であったイギリスの歴史を反映させた愛称のようなもの。
国旗を言う場合はユニオン・フラッグというのが正式です。
国そのものを表したこのユニオン・ジャックに敬意を表し、今季のアクアスキュータムではそのカラーリングを取り入れたアイテムをご提案。
代表的なものが、鮮やかな色表現を可能とするラムウールで仕立てたダッフルコート「WINSTON」です。
生後1年未満の羊から採取される「ラムウール」は洗浄すると綺麗な白色になる事から、淡い色や彩度の高い色に染めるのに適した高級素材です。
繊維自体もまだ細く柔らかい毛質であり、洋服に仕立てた際の軽やかさや暖かさが魅力です。
そんなラムウールでユニオンジャックレッドを表現したダッフルコートは、鮮やかな色彩に加えて、ガシッとした生地感からは想像できない軽やかな着心地の1着に仕上がりました。
コーディネートの差し色としてユニオンジャック・カラーを表現するのに、ニットからは「F.F 30gauge Mock-neck」と「Basket-knitting crew-neck」を。
シャツからは「AQ Motif Print Shirt」をご提案。

整然とした高密度の編み地をして「最も美しい編み地を作る」と評されるドイツ・シェラー社製のフルファッション編み機。
国内で唯一この成型編機を有する工場にて製作した「F.F 30gauge Mock-neck」は今季のアイテムの中でも特にユニオン・ジャックカラーにこだわったアイテムです。
ニットの色が綺麗に出るかどうかは、繊維の質と編みの質の両方が高いレベルで実現してこそ。
いくら高品質な繊維を用いていても、繊細な素材はそれだけ断裂やガタつきが起きやすく、丁寧に編み込まなければむしろ粗悪な仕上がりとなってしまいます。
いい素材を使っているから品質が良い、というのは本質的ではありません。
編み上げや仕上げにこだわってこそ美しいニットに仕上がるという考えのもと、英国を代表するカラーリングを表現した一枚です。

ウール・ナイロン・コットンと、異なる素材を用いて太い編み地が交互に行き交うバスケット編みを表現した「Basket-knitting crew-neck」。
3種それぞれ絶妙に異なる発色性を生かし、無地でありながらリズミカルな表面が魅力の仕上がりとなりました。
同色のエルボーパッチが付き、英国伝統のホームメイドニットを思わせる、温かみ溢れるニットです。
今季オリジナルのシーズンロゴをユニオン・ジャックカラーで表現したボタンダウンシャツ。
細かい柄が襟にまで敷き詰められているので、一枚着としてはモチロン、ニットとのコーディネートでも映える一着です。
胸ポケットや襟、剣ボロなど、別布で作られているパーツが、緻密な柄合わせでドッキングされているので、まるで一枚の布から切り出したような丁寧なモノづくりがブランドの品を滲ませます。
コーディネート
03
ユニオン・ジャック・レッドを主役にイングランドの聖ジョージ旗の配色を意識したコーディネート。
発色豊かなダッフルコートをさらに映えさせる白のトーンが美しく、襟元からチラリと除くシャツの柄がアクセントとなっています。
スタッコベージュのグラデーションで組んだラグジュアリーなシーズナルコーディネート。
元は未染色の羊毛を意味する「BEIGE」の魅力が存分に生かされたルックとなりました。
リージェントストリートをはじめとするロンドンのクラシカルな街並みに似合うスタイリング。
パーティーやレストランを想定したジャケットスタイルも、スタッコベージュを取り入れると華やかさと気取らなさを上手にブレンドしたコーディネートに。
淡いトーンでまとめて柔和な雰囲気を演出するのがベージュスタイルのポイントとなる。
掲載の商品以外にもこの時期楽しめるアイテムが目白押し!
ぜひご覧ください。
















